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ヒト・パピローマウイルス・ワクチン関連神経免疫異常症候群

病名

ヒト・パピローマウイルス・ワクチン関連神経免疫異常症候群(Human Papillomavirus Vaccine (HPV) -associated Neuroimmunopathic Syndrome: HANS)

HANSはどのような病気か?

ヒトは自分の意思で日々生きています。美味しそうなものを自分で選んで食べ、会話の中で自分の考えを述べ、暑さ寒さに合わせて着るものを調節し、ときには美しい景色を観るため長時間車を走らせます。一方で、身体は自動的に自分のからだの調節を行っており、食べたものを消化・吸収してエネルギー源とし、休んでいる夜中にも呼吸をし、体を構成する個々の細胞が必要とする酸素や栄養源を心臓が拍動して血液を介して細胞に送り届けています。すなわち、ヒトは意識・意思の存在であるとともに、自律的な生命維持機能に支えられて生きているのです。 

この自律的な生命維持の機構の仕組みは、おもに神経制御系(とくに自律神経系)と液性制御系(内分泌系・自然免疫系・遠隔タンパク伝達系)から成り立っています。そして、その中枢の様子が最近明らかになってきました。脳の真ん中の第三脳室の周囲に脳室周囲器官という特殊な構造があり、身体を循環している血液の情報と脳脊髄液の情報がそこで溶け合い、例えば、血液中の血糖量やナトリウム濃度を図り取っています。その情報に基づいて、すぐ下にある視床-視床下部-下垂体が自律神経やホルモン、その他の伝達タンパクを通じて身体の機能を整え維持しているのです。この機能を「恒常性の維持機能」(ホメオスターシス)と呼びます。

HANSの患者さんは、HPVワクチン接種によりこの脳室周囲器官に病変が生じたものと考えられます。実験で普通に用いられるC57B/6マウスにHPVワクチン(ガーダシル)を投与すると、この脳室周囲器官に炎症が生じることが証明されています。そのために全身の筋肉の調節が適切に行われず、筋肉はつねに緊張状態になり全身に痛みを発します。筋肉の過緊張はひどい頭痛をも誘発します。また、夜・昼の調節ができなくなり寝ている時間と起きている時間が不分明になります。ものを食べても胃の動きの調節ができなくなるため胃もたれ、胃痛、内容物の逆流に悩み、大腸の蠕動運動の動きの調節ができなくなり、きつい便秘と逆に下痢を繰り返すことになります。心臓を養う血管(冠動脈)の末端部の自律神経による調節不全により激しい心臓痛を訴え、空気を吸おうと思っても呼吸調節機能不全により空気が入ってこないと訴えます。内分泌系の調節にも異常をきたし、ほとんどの患者さんは生理異常をきたし、赤ちゃんがいないのに乳汁分泌が始まり、また血糖値の調節異常により食後3,4時間後に異常な低血糖症を呈します。さらに炎症はその周囲にも広がり、精神的に不安に苛まれ、記憶障害を呈します。なかには認知機能に障害を呈する患者さんもおられます。

わが国ではこの病気の患者さんは女性だけですが、男性もHPVワクチンを接種しているオーストラリアでは男性の発病もあり男女数はほぼ同じ頻度です。患者さんのHPVワクチン接種時期は勧奨接種された2011年~2012年6月に集中しています。発症の頻度は世界的にほぼ同じでHPVワクチン接種者1000人に2-3人です。

HANSは、このように複雑な病状を呈し、血液検査や通常の頭部CT/MRIなどの画像検査では異常所見はみられません。一般診療の中では治療も難しいのですが、ようやく病気のメカニズムが解明され、脳内に薬剤を届ける根本的な治療法こそ確立されていませんが、少なくとも対症療法は進んできました。まずは診断を明確に行うことから始めることが大切です。

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